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ティーダ出版×若手作曲家・石原勇太郎氏によるコラム企画!
作編曲家・音楽学者と多方面から音楽を見つめる石原氏に
吹奏楽・アレンジ作品について魅力を語っていただく当コラム。
今回取り上げていただいた楽曲は、「英雄」という愛称でお馴染みの
ベートーヴェン『交響曲第3番 第1楽章』。
吹奏楽にアレンジされた楽譜に秘められたカギを、見つけていきましょう。



西洋音楽の歴史(いわゆる「音楽史」)に関する本をいくつか読んでみると、どの本にも必ず出てくる作品があります。例えば、ギョーム・ド・マショーの《ノートルダム・ミサ曲》、モンテヴェルディの《オルフェオ》、ベルリオーズの《幻想交響曲》、ワーグナーの《トリスタンとイゾルデ》...。ヨーロッパの音楽の歴史を学ぶ上で、避けては通れない作品がずらりと並びます。さて、みなさんもご存知の大作曲家ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770 – 1827)の作品も、上の並びに当然入るはず。それでは、どの作品が入るでしょうか?
日本の年末恒例《交響曲第9番》?それとも『のだめ』で有名になった《交響曲第7番》でしょうか?いやいや、あるいは後期のピアノソナタという可能性も...。そのように予想される作品は、たしかに音楽史に関する本で取り上げられる作品に間違いはありません。しかし、ベートーヴェンの作品の中で、最も革新的であると言っても過言ではない作品があるのです。それが《交響曲第3番》、一般的に「英雄(エロイカ)」という愛称で知られている作品です。今回は、そんな《英雄》の吹奏楽版を見(聴き)ながら、吹奏楽版だからこそ気がつく《英雄》の魅力に迫ってみましょう!

「英雄」とは一体だれ?
さて、《英雄》を聴く前に、そもそもなぜベートーヴェンの《交響曲第3番》を「英雄」と呼ぶのでしょうか?ウィーン楽友協会に保存されている《英雄》の筆写譜(作曲者の自筆楽譜を、プロの楽譜書き(写譜師などと呼びます)が綺麗に書き直した楽譜のこと)の表紙には、次のような言葉が書き残されています。
大交響曲
ボナパルトと題す
ルイ・ヴァン・ベートーヴェン氏による
これらは、筆跡からベートーヴェンが書いたのではなく、筆写譜を作った楽譜書きさんが書いたものであることがわかっています。ボナパルトってなんだか聞き覚えがありますよね?さらに表紙を見続けてみると...。
ボナパルトに捧ぐ
またもボナパルトという名前が出てきました。しかも、今度はベートーヴェン自身が書いたようです。
さて、ベートーヴェンの生きた時代のボナパルトと言えば誰でしょうか。クイズにする必要もなく、誰もがすぐに気がつくと思います。そう、ボナパルトとは、ナポレオン・ボナパルトのことです!

しかし、みなさんも不思議に思うことがありませんか?
なぜ、表紙に「ボナパルトと題す」とか「ボナパルトに捧ぐ」と書かれているのに、今では「英雄」と呼んでいるのでしょうか。その答えをしっかりと示そうとすると複雑なのですが、単純に言えばベートーヴェンが「ボナパルト」を避けて「英雄」に変えたから、というのが直接の原因です。先程の筆写譜の表紙は「ボナパルトと題す」という部分がガシガシとえぐり取られているのです。どうやら、ベートーヴェンは世の中を変えるはずの英雄ナポレオンが、皇帝に即位するのが気に入らなかったのか、表紙の題名部分を破いたというのが通説です。しかし、不思議なことにベートーヴェン自身が書き込んだ「ボナパルトに捧ぐ」という一文はえぐり取られていないのです...。この辺りの話を検証し始めるとそれだけで終わってしまうので、興味のある方はマルティン・ゲック(北川千香子 訳)『ベートーヴェンの交響曲 理念の芸術作品への九つの道』(音楽之友社, 2017年)を読んでみてください!読みやすいうえ、おもしろいですよ!

さて、ともかくも「英雄」と呼ばれるようになったこの交響曲は、まさに西洋音楽の英雄のように、交響曲というジャンルに革命を起こしたのです。

《交響曲第3番 変ホ長調「英雄」》より第1楽章(宇田川不二夫 編)

今回の編曲者は宇田川不二夫さんです。東京芸術大学の別科などで作曲を専門に勉強され、吹奏楽やアンサンブルのためのオリジナル作品はもちろん、質の高い編曲作品をいくつも手掛けられています。ティーダ出版でも《英雄》以外の多くの編曲作品、そしてオリジナル作品を扱っているので、ぜひご覧になってみてください。

●小編成で名作に挑む

さて、宇田川編の《英雄》ですが、なんと最小16人で演奏可能です。原曲のオーケストラでは少なくとも40人近い演奏者が必要なことから考えても、これは驚きのコンパクトさ!さらに、このような名作の編曲は、比較的編成が大きくなりがちです(コンクールの都合もあるのかもしれませんね)。そんな中、ベートーヴェンの傑作を20人以下でも演奏できるとは、これだけでこの編曲は十分に価値があります。 また、ベートーヴェンの時代にはハルモニームジークのような「管楽アンサンブル」も盛んに演奏されていました(ベートーヴェンも管楽アンサンブルのための作品をいくつか書いています)。16人程の吹奏楽では、演奏の工夫次第で、当時の管楽アンサンブルの雰囲気を出すことも可能です。もちろん、それとは反対にダイナミックな吹奏楽らしい演奏にすることもできるはず。そういう楽しみが、宇田川編の《英雄》にはあります。原曲では、もちろん解釈の違いやオーケストラ毎の響きの個性を楽しむことができますが、それよりもさらに《英雄》の演奏の楽しみ方が広がっているのです!

●丁寧なトランスクリプション

宇田川編の《英雄》は、いわゆるトランスクリプションです。
編曲には、大きく「アレンジメント」と「トランスクリプション」があります。「アレンジメント」は一般的に原曲に対し、編曲者の感性をぶつけている、誤解を恐れずに言えば、自由な編曲を指します。一方「トランスクリプション」は、原曲の持つ要素をそのまま別の編成に移し替えるような編曲を指します。どちらも立派な「編曲」にほかならず、どちらが良い悪いということはありません。しかし、「トランスクリプション」は単に編成を移し替えただけでは原曲の持つ様々な要素を再現することはできません。そこに難しさがあるのですが、宇田川編の《英雄》では、非常に丁寧なトランスクリプションが実現されています。
例えば、宇田川編の659小節(原曲:ヘンレ版655小節)目(音源:14:12頃)、トランペットが主要主題を高らかに提示する部分があります。しかし、3小節主題を朗々と歌ったかと思えば、すぐにB音(実音)の刻みになってしまいます。こんなこと、吹奏楽では普通ありませんよね!? 事実、トランペットが刻みになった後もフルートやクラリネット1番が主題の続きを(刻んではいるものの)演奏しているのだから、659小節目からずーーっと続けてトランペットが演奏すれば良いはずです。 しかし、原曲の楽譜を見てみると、トランペットは宇田川編と同じように書かれているのです。何も考えずに編曲をすれば、トランペットにそのまま主題を演奏させ続けるかもしれません。なぜなら、その方がかっこよく響くからです。しかし、宇田川さんはそうはしなかったところに、その仕事の丁寧さを感じることができます。
つまり、この編曲はあくまでもベートーヴェンの意図をオーケストラから吹奏楽にそのまま移し替えようと試みているのです。いや、これは本当に丁寧な、そして大変な仕事です。私だったら、トランペットに主題をすべて吹かせてしまうだろうな...とか思ったり。
さて、こうも丁寧なトランスクリプションになると、トランペットやトロンボーン、そしてティンパニなどは、吹奏楽のオリジナル作品のような華やかさはほとんどないのです。しかし、実際にベートーヴェンの時代のトランペットや(原曲にはありませんが)トロンボーンは、宇田川編の《英雄》のような使われ方が一般的でした。今の時代の吹奏楽での楽器の使われ方だけでなく、音楽室に肖像画が飾られているような作曲家が生きた時代に、自分の演奏している楽器がどのように使われたのかを知る機会は、吹奏楽をやっているとなかなかないでしょう。そのような歴史的な楽器法のことも、宇田川編の《英雄》の丁寧なトランスクリプションから学ぶことができるはずです。

●管楽器ならではの和音の響きを楽しむ

編成の話の中で「管楽アンサンブル」の名前が出たと思います。実際に聴いたことのある方もいるかもしれませんが、この管楽アンサンブル、とても心地よい響きがするのです。弦楽器のいるオーケストラの響きも、もちろんそれはそれで良いものですが、管楽アンサンブルの響きはそれとはまた違った良さがあります。
宇田川編の《英雄》が、管楽アンサンブル的な響きを獲得できる可能性があるのであれば、《英雄》の響きもオーケストラとは違った楽しみ方をできるかもしれません。
例えば、宇田川編の388小節(原曲:ヘンレ版384小節)目(音源:8:19頃)、展開部が終わり再現部へと移行する前のとても繊細な部分、原曲でも管楽器が和音を演奏しているのですが、宇田川編では編成の都合で原曲とは異なる組み合わせの和音になっています。ここで注目したいのは音が変わるのがフルートになっている点です。原曲ではクラリネット1番がその役割を持っていますが、宇田川編のクラリネットは原曲の弦楽器の役割を担っているため、フルートにその重要な役割が回ってきたわけです。
さて、クラリネットの代わりに、フルートを和音の中に組み込むことで、全体の響きは当然変わってきます。クラリネットよりも少しはかない音色の出るフルートの音域を使うことで、この後に来る再現部の力強くはっきりとした和音と強い対比が生まれています。このように、そこかしこに演奏の工夫を楽しめる部分が宇田川編の《英雄》にはあります。

ちなみに《英雄》の変ホ長調 Es-Durという調は、「英雄的」な性格を持つ調だと多くの作曲家が認識してきました。そこには、ベートーヴェンのこの交響曲の影響を大きく感じることができます。吹奏楽作品でも変ホ長調は人気の調ですが、ベートーヴェンの《英雄》ほど、変ホ長調の本質(?)を感じられる作品はないかもしれません。
実際に《英雄》は、様々な面で当時の音楽に革命を起こしました。それについてここで触れてしまうと、趣旨とずれてしまうので、残念ながらこれ以上お話しはできません。しかし、ともかくもベートーヴェンの《英雄》という作品は、世界を変えたヒーローに捧げられた、音楽を変えた偉大な交響曲なのです。そんな作品を吹奏楽で演奏できる。それほど幸せなことはないのではないでしょうか?ぜひみなさんも宇田川編の《英雄》、聴いて、演奏して楽しんでみてください!




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